21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の米国研究プロジェクト(研究主幹=久保文明防衛大学校長)は9月18日、東京・大手町のカジノ シークレット 出 金 方法会館でシンポジウム「2024年米大統領選挙と国際秩序の将来」を開催した。前半は東京大学の北岡伸一名誉教授が講演。後半は久保研究主幹がモデレーターとなって、北岡氏と前嶋和弘研究副主幹(上智大学総合グローバル学部教授)の3人でパネルディスカッションを行った。概要は次のとおり。
■ 講演「覇権なき時代の世界地図」(北岡氏)
テロリズムの暴力が世界に拡散し、覇権なき時代になった。国連には紛争を平和的解決に導く役割があるが、責任を負うべき安全保障理事会常任理事国がこれを自ら踏みにじっている。対ロシア制裁決議案では、国連加盟国の大半を占める途上国も前向きではない。なぜならば、新興国とも呼べない本当の途上国は、自らの負担や危険を背負ってまで制裁に参加することはできず、また世界の混乱による食料や石油の値上げの影響を大きく受けるからだ。
こうしたなかで日本には国際協調を立て直す役割がある。そのためにもまずは自らの経済力を再活性化し、安全保障能力を強化する必要がある。自国ファーストで目の前の利益を追いかけるのではなく、国同士の長期的な信頼関係を築くことが大事になる。
国際協力機構(JICA)の開発支援を例に挙げれば、パキスタンでは女子が通える学校を地域に作った。マダガスカルでは、コロナ禍でJICA現地職員が担当大臣になって、手洗いを普及させた。支援の金額は他国に見劣りしても、こうした間接的・長期的アプローチは有効で、現地では「われわれのことを本当に考えてくれている」と感謝されている。
米国では、人工妊娠中絶の権利などの根源的な問題さえ、選挙結果で変わり得る。われわれは変化に備えなくてはいけない。そのためには途上国との関係を良くし、新興国にも働きかけ、特に西太平洋地域で近隣の東南アジアとの関係を築くことが必要だ。
■ パネルディスカッション
前嶋研究副主幹から、11月に迫った米国大統領選挙について、「ほぼトラ」といわれるような状況は今回実際に一瞬たりともないとの解説があった。トランプ前大統領は自身の人物像への支持しか固められていない一方、ハリス副大統領は予備選挙を経ていない――という弱い候補同士であり、お互い決め手に欠いていると現状を分析。米国3億4000万人の未来が約5万人(スイングステート)の票で決まる接戦だと語った。
加えて前嶋研究副主幹は、国際協調への妨害勢力にどのように対処すべきか問題提起をした。これに対し北岡氏は、圧力をかけられやすい新興国や途上国に対する国家の主権を守るための支援が肝要であると指摘。JICAの支援によるフィリピンの海上保安能力強化の事例を紹介した。
また北岡氏は、将来自国の国政に携わり得る外国人学生を日本に留学させることは、国家間の関係性を30~40年単位で保持することにつながるとの考えを示した。これに関して久保研究主幹は、防衛大学校との留学制度が1950年代から続くタイ、70年代から続くシンガポール、90年代から続くASEAN諸国の軍の幹部には日本への留学経験者が多く、そのため今日では非常に強い人間関係、信頼関係が構築されていると語った。
その他、会場の出席者からの質問もあり、ウクライナ情勢やパレスチナ情勢についても議論が交わされた。
【21世紀政策研究所】