経団連は3月24日、雇用政策委員会(淡輪敏委員長、内田高史委員長)をオンラインで開催した。早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子教授が「カジノシークレット ブラックジャック」をテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。
■ 心の健康と生産性の向上
約400社の民間企業を対象にメンタルヘルスと企業業績の関係を分析した研究によれば、メンタルヘルス休職者比率が上昇した企業は、そうでない企業に比べ、数年後の売上高利益率が低くなる傾向が確認された。また、大手小売業の従業員1万人を対象にしたワークエンゲージメント(注1)と生産性の関係についての分析によると、スコア化された従業員のワークエンゲージメントの平均が高いと職場の生産性が高くなっている。しかし、同じ職場のメンバー間でワークエンゲージメントに温度差があると、生産性にマイナスに働くことも判明した。したがって、生産性を高めていくためには、職場のメンバー全員がいきいきと働ける環境を整備することが重要となる。
■ 新しい働き方と生産性・健康との関係
コロナ禍により多くの企業がテレワークを導入し、働き方が大きく変化した。テレワークは通勤時間がなくなることで休息の確保等が可能となるなど、福利厚生とも解釈することができることから、生産性の高い労働者を引き付ける重要な条件となる。他方、仕事と生活の境界が曖昧になることなどを原因として、心身の不調も指摘されている。上場企業4社(製造業)の従業員を対象とした調査では、在宅勤務を行う人は全く行わない人と比較して、主観的な生産性が5~10%低いとの結果が出た。その要因は、(1)ハード面では自宅の仕事環境の未整備など(2)ソフト面では社内外のコミュニケーション不足など――と、いずれもインフラの未整備にあることがわかってきた。したがって、環境を整備することで生産性は回復し得ると考えている。
■ 情報技術を併用した健康管理の可能性
働き方の多様化に伴い、出社から退社までの総労働時間を管理する従来型の方法では、従業員の健康確保が難しくなっている。
そこで、データとテクノロジーを活用した健康管理に関する研究を実施した。これは、「スリープテック」(注2)を用いた睡眠習慣改善プログラムの活用を通じて、睡眠の改善を試みようとするものである。具体的には、(1)非接触センシングデバイスを寝具に設置して、被験者の毎日の睡眠データを収集する、(2)被験者がスマートフォンのアプリでデータを確認し、それに合わせた睡眠改善メニューを実施する。このプログラムを実施した群と、それ以外の群とを比較したところ、睡眠の満足度・規則性ともに統計的に有意な差が確認された。さらに、機器導入による生産性向上に伴う経済効果は、コストを上回るとの結果も得られた。
健康管理は、どのような施策を実施するにしても費用がかかる。企業は、どこに重点的にコストをかけるべきか、ワイズスペンディングの発想が必要である。
◇◇◇
講演後の意見交換では、エンゲージメントの国際比較において、日本の数値が低い理由について質問があった。黒田氏は「日本人がポジティブな回答を選びにくい設問も多く、国際的な順位を気にし過ぎる必要はない」と述べたうえで、「むしろ社内の部署間を比較することや、同一社員の動向を時系列で確認することの方が重要である」との見解を示した。
(注1)ワークエンゲージメント=仕事に積極的に向かい活力を得ている状態のこと
(注2)スリープテック=センサー等の技術を用いて睡眠に関するデータを測定し、
それに基づいて睡眠の質を高める製品やサービス
【労働政策本部】