OECD租税委員会御中
税制委員会企画部会
カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト意見
OECDが2015年5月22日に公表した改訂討議草案「BEPS行動6:条約の濫用防止」に対し、以下の通りカ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの意見を提出する。
カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典を享受することのみを目的とした事業実態のない法人を通じた取引・取極めに対し、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典を付与しないのは当然である。しかし、昨年4月に提出した意見で主張した通り、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典は、真正な経済活動に対しては当然認められるべきである。
今回の改訂討議草案では、LOB(特典制限条項)の規定について、個別条約における選択制とされ、過度に厳格な内容の一律な適用が回避されるとともに、PPT(主要目的テスト)に係る事例が拡充されるなど、納税者に対する配慮も窺える。ただし、LOBにおける選択肢の拡大は同時に制度の複雑化も意味しており、納税者の事務負担の増加に注意が必要である。また、PPTについては、適用対象が不当に広範なものとならないよう「主たる目的の1つ」(X条7)とあるうち「の1つ」との文言は削除すべきである。
改訂討議草案では、日本企業の懸念事項の取扱いが一部ペンディングとなっており、かつ、新たな提案も見られる。そこで以下では、我々が特に重要と考える「地域統括会社」及び「派生的受益者基準及び特別税制レジーム」に絞ってコメントを行うこととする。
1.地域統括会社(Regional Headquarters)
今回の改訂討議草案では、PPTに係るコメンタリが拡充され、地域の一定の業務を統括する会社に対してはカ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典を否認することが合理的でない旨の事例G、Hが追加された。このうち事例Gについては「真実の事業」「実質的な経済的機能」の意義について各国で統一的な解釈が行われるか等の懸念が残るものの、いずれの事例においても、条約濫用の意図はなく、能動的な事業活動が行われていることは明らかであり、PPTの適用対象外との結論を歓迎する。今後、これらの事例をさらに発展させ、地域統括会社が傘下の子会社株式を複数保有する状況においてもPPTが適用されないことを明確化すべきである。
一方、LOBにおいては、行動6中間報告(2014年9月)で投資の実行・管理に係る事業は能動的活動の範囲外であり(同報告書パラ16、X条3a))、また、「本店業務(headquarters operation)は投資の管理事業である」とされたことを受け(同報告書LOBコメンタリパラ48)、地域統括会社にはカ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典が付与されない可能性が残ったままとなっている。
この点について、改訂討議草案では、本年3月のWP1で賛否両論の立場から議論されたことのみが記載されており、結論に関する記載はないが(パラ70)、PPTが地域統括会社に適用されないならば、LOBにおいても、整合性の観点から、税目的のみで設立されたことを示す場合を除き、地域統括会社にカ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト特典を付与すべきである。
なお、その際には、地域統括会社の業務をX条3a)による能動的活動として認定する手法もあるが、むしろ納税者の予見可能性を考慮し、地域統括会社自体を(過度な要件を付すことなく)X条2において適格者として認めることが望ましい。
2.派生的受益者基準及び特別税制レジーム
今回の改訂討議草案では、派生的受益者基準に関連し、特別税制レジームに係る提案が行なわれているが、賛同できない。行動6の狙いは「二重非課税」の排除であり、利子や使用料等に係る所得又は収益について優遇的な実効税率の適用を受けていたとしても、一定の課税がなされている以上、条約特典の失効という措置を採用するのは過剰である。
また、本提案が行動5(有害税制)や行動8(無形資産)との関係で説明されている(パラ47、48)ことからも分かるように、議論の背景には、主として本店所在地国から軽課税国へのIPの移転と、それに伴う「税源浸食支払」に条約特典を与えることへの懸念があると考えられるが、これらIPの移転のうち不当なものについては行動5、行動8~10、行動3(CFC税制)によって相当、封殺されると考えられる。
租税カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト目的は本来、二重課税の排除を通じた締約国間の経済交流の促進である。条約上、これらの措置に加えて重畳的に対策を講ずることは望ましくない。3条(一般的定義)、10条(配当)、11条(利子)、12条(使用料)、21条(その他の所得)その他含め、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト新規定を設けることは避けるべきである。派生的受益者基準は、特別税制レジームを採用することなく、LOBに導入することが適当である。
なお、今後、LOB採用条約が増加するならば、納税者の事務負担軽減や各国における執行の標準化の観点から、居住者証明など各種手続きについて、OECDが統一指針を作成することが望ましい。