カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トは9月20日、東京・大手町のカ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト会館でイノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催した。東京大学名誉教授で次世代基盤政策研究所の森田朗代表理事から、EUにおけるEHDS構想と医療情報の2次利用について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ EHDSの概要
新型コロナウイルスによるパンデミックを契機として、EUでは医療データ利活用の重要性が認識された。そこで、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トを進めるため、EHDS(European Health Data Space)が提案された。
EHDSでは、EUの域内であればどこでも自己の医療データにアクセスし最善の治療を受けられるという医療データの1次利用に関する権利をEU市民は有する、とうたわれている。それと同時に、研究、イノベーション、政策立案、規制活動のために個人の医療データを使用するという2次利用のための仕組みを整備することも標榜している。また、EHDSは電子カルテシステム(EHRシステム)の開発や販売、使用に関する法的枠組みを整備するという側面も有する。
2次利用に関しては、新たにデータ管理機関(Health Data Access Bodies、HDAB)を設置することで、研究機関等のデータ利用を希望する組織からのデータ利用申請に対して許諾の可否を判断する。HDABが利用を許諾した場合は、利用者に渡すデータを加工するだけでなく、利用者のデータ管理および使用に関する法令遵守の状況を監督する。このような個人情報保護に資するデータ管理機関が置かれることも注目に値する。
EUはEHDSを皮切りに、医療分野だけでなく農業や金融などさまざまな分野においてデータ利活用に関する制度を整備する予定である。これにより、EU市民にとっての利便性を高めるだけでなく、産業の振興につなげ、さらなる経済的発展を目指している。
■ わが国が目指すべき方向性
わが国における医療データ利活用に関しては、(1)データ加工形態(2)本人の同意(3)本人の同定(ID)――という大きな論点がある。
まず、データの加工形態については、特定の個人を識別することができないように加工した「匿名加工情報」と、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別ができない「仮名加工情報」の2種類があり、わが国では次世代医療基盤法の制定や改正にあたって、仮名加工情報を認めるかが大きな議論になった。一方で、EHDSでは両方の加工形態が並列的に記載されており、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トに伴う患者のデータ漏洩リスクなどを勘案したうえで、適宜データの加工形態が決せられるなど、柔軟に考えられているようである。
次に、わが国では個人情報保護の観点から本人の同意が重視されている。EHDSでは1次利用に関して同意は求められていない。2次利用に関しては既述のとおり、同意ではなく、HDABによるデータの管理やデータ利用者への監督等により、個人情報を保護する制度が提案されている。そこで、日本においても同意を過度に重視するのではなく、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト用に関する管理機関等を設けることによって、個人情報保護を図るべきである。
医療データ利活用のためには、さまざまな医療データについて本人を同定するための仕組みが必要である。この点、日本においてはマイナンバーを活用すべきである。
【産業技術本部】