「次は私の学校かもしれない」「学校にいても安心できない」――。
3月24日に全米各地で行われた銃規制派デモで、ワシントンの参加者は20万人規模といわれ、現場では12歳前後の参加者から悲鳴のような声が上がった。その一方で、銃規制反対派のデモも誘発されワシントンが揺れた。銃規制反対派は、銃撃事件は25年間減り続けており、銃規制は事件の再発防止につながらないと主張している。大規模銃撃で命を落とす確率は、交通事故、水難事故、食べ物を喉に詰まらせる事故などで亡くなる確率よりも低いといった議論まである。
ワシントン・ポスト紙は、銃規制派デモの主体は若者よりも中年女性で、イデオロギー的にも穏健派が多かったと報じている。トランプ政権成立以降、大統領就任、女性差別、移民規制などへの抗議デモが起きており、ティーパーティー集会や毎年1月に数万人を集める妊娠中絶反対集会など大規模なものもある。地下鉄で思い思いのプラカードを持つ参加者とすれ違うことも多く、家族連れでピクニックにでも行くような雰囲気のグループも多く見かけた。政治意識の高さ、意見の多様さに感心する。自らの意見を表明することに抵抗がなく、むしろそうすべきだと考えている印象を受ける。
経済面では、トランプ大統領が、鉄鋼業や石炭業でかつて栄えたラストベルトにおける不満と不安に焦点を当て、製造業の雇用問題をクローズアップしたことから、シリコンバレーのIT産業には冷ややかとみられてきた。IT産業の側も、大統領が問題視するグローバリゼーションのもとで発展してきた面もあり、環境や移民への対応で大統領とは異なるスタンスを取ってきたことから、やや疎遠な印象を与えてきた。
そうしたなか、昨年末の税制改革はIT産業にも減税効果が出ており、アマゾン1社でも8億ドル近いとされている。そのため、環境問題や移民に関する立場の違いは別として、経済政策については素直に評価する動きも出ている。他方、トランプ大統領が、アマゾンの節税対策や郵便局も含めたビジネス・パートナーとの関係を問題視するツイートを発したことから、関係を疎遠にしておけない状況にもなっている。その一環として、アマゾンが、有力ロビー・ファームとの契約を見直し対議会・行政府へのロビイングを強化していると報じられている。
シリコンバレーのあるカリフォルニア州は、民主党勢力の牙城ともみられており、州都サクラメントではトランプ政権を相手にしない雰囲気さえあると聞く。米国各州にはワシントンDCとは異なるさまざまな動きがあり、日本が注目すべき点も多い。特に、シリコンバレーでは、スタートアップからベンチャー・キャピタルによる企業化までダイナミックな動きが日々起きていると、着任間もない宇山智哉サンフランシスコ総領事も目を輝かせていた。特に、スタンフォード大学への日本人留学生を増やすなどして、スタートアップで成功できる優秀な人材を育成することが急務とのことだった。
(米国事務所長 山越厚志)