政府の総合資源エネルギー調査会は年内の中間取りまとめを目指し、電力市場の競争活性化策や自由化後の公益的課題への対応策について急ピッチで検討を進めている。新たな制度は中長期的な電力供給構造、ひいては電気料金に大きな影響を与えることから、議論の行方が注目される。
カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トは11月16日、東京・大手町のカ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト会館で資源・エネルギー対策委員会企画部会(長井太一部会長)を開催し、日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一総括研究主幹から、電力システム改革の論点に関する考え方について説明を聞いた。主要施策の検討課題等に関する説明の概要は次のとおり。
※主要施策の概要については本紙11月24日号5面「電力システム改革の進捗状況と今後のあり方等を聞く」を参照
■ 非化石電源市場
エネルギー供給構造高度化法が掲げる非化石電源比率44%目標は、小売電気事業者全体で達成すべき目標であり、個社のクレジット購入インセンティブにはならない。
そのためクレジットの市場価格は暴落する可能性が高い。FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)のもとで国民が支払ったプレミアム分は極めて安価に売却されることになる。
高度化法の目標を各社に割り当てて義務化することも考えられるが、それは規制によって取引を促す点で事実上の排出量取引導入に近い。
■ ベースロード電源市場
ベースロード電源市場で取引される電気は電源の種類(石炭・水力・原子力)を区別しない商品となる見通しである。実際に発電が行われるまでCO2排出係数を算出できないという課題がある。
非化石電源比率44%目標達成の観点からは、仮に各社に非化石比率を高めるよう求めるとすれば、原子力・大型水力を持たない新電力だけに追加的な非化石価値の調達を求める非対称規制となる懸念がある。
■ 容量メカニズム
日本は、電力供給エリア間を結ぶ連系線容量の市場取引や卸電力市場の活性化を目指す一方で、火力発電所の新設も促す必要がある。海外事例をみる限り、小売事業者に厳しい供給力確保義務を課すことは難しく、送電部門が必要な容量を確保し小売事業者に費用負担を求める「集中型容量市場」の導入が唯一の選択肢となろう。集中型容量市場の設計においては容量価格の設定が重要となる。
■ 今後の展望
卸市場活性化により、固定費を含まない変動費ベースの電力取引の割合が高まる。長期的には再生可能エネルギーによる押し出しもあり、火力の維持は困難化する。そのため容量市場の導入が必要である。
卸市場活性化により新電力の電気料金が下がると、旧一般電気事業者からの契約切り替えが進む可能性がある。この場合、旧一般電気事業者各社は自社需要を超える発電投資のインセンティブに乏しいため、新電力への切り替え需要分の供給力確保が課題となる。英国で原子力発電所の新設に中国マネーが導入されているように、自由化地域において発電部門はリスクマネーの投資対象となっている。安全保障の観点からも検討が必要である。
【環境エネルギー本部】