コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)の上場企業への適用開始から1年が経過した。当初の混乱も収束しつつあり、上場企業の対応の傾向がみえてきた。そこで、本連載では、ガバナンス報告書における開示内容の分析を中心に、コード対応の傾向と課題について、5回にわたり取り上げたい。
ガバナンス報告書については、TOPIX500構成銘柄企業を対象に、森・濱田松本法律事務所が実施した集計結果を紹介する(注1)。
1.提出状況
今年7月末の時点で、TOPIX500構成企業中474社(94.8%)がコードに対応したガバナンス報告書を提出済みである。適用後最初の株主総会から半年後まで提出を猶予されていることから、例えば12月決算の会社は今年9月まで猶予されることとなる。しかし、多くの会社が期限を待たずに提出している。未提出の企業27社は1月決算企業2社、2月決算企業10社、11月決算企業2社、12月決算企業12社である。
2.コンプライの状況
前記474社について、説明(エクスプレイン)している原則の数で分類した結果が図表1である。「エクスプレインする原則が0」とは全原則を実施(コンプライ)する企業のことである。全原則をコンプライする企業は249社(52.5%)となる。エクスプレインする原則数が3以下の企業も加えると420社(89.0%)と約9割に上る。
なお、TOPIX100構成銘柄における全コンプライの企業は、3月末の時点では提出企業の41%であったが、7月末の時点では67%であり、全コンプライの企業が顕著に増えている(注2)。原則4-11-3(取締役会の実効性評価)についてエクスプレインしていた企業が、その後取締役会の実効性評価を実施した結果、コンプライとなった影響が大きい。
3.エクスプレインの内容
エクスプレインした企業が多い原則は、図表2のとおりである。従前と同様に4-11-3(取締役会の実効性評価)が最も多いが、そのほかには、4-2-1(中長期インセンティブ報酬)、4-10-1(任意の委員会等)、1-2-4(議決権の電子行使や招集通知英訳)、4-1-3(後継者の計画)が多い。
ただし、エクスプレインの多くは、ガバナンス報告書提出時点では未実施または実施予定であるものや、検討中であるとするものがほとんどである。原則の趣旨に賛同しないとか、自社に適合しないとして積極的にエクスプレインする例は、評価にかかる点で集計に誤差はあり得るが、30社程度しか存在しなかった。
4.まとめ
以上の諸点から、一定規模以上の上場企業では、コードの各原則のすべてまたはほとんどについて実施するか、もしくは実施予定とする傾向が顕著であるといえる。
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次回は、政策保有株式への影響にふれる。
(注1)上場企業は約3500社、コードが全面適用される本則市場上場企業も2500社あり、これらの全体を対象とした集計結果を利用する場合には、中小規模の企業の影響が強く出る点について留意が必要である
(注2)TOPIX100構成銘柄の集計詳細は「旬刊商事法務」2100号参照
- 執筆者プロフィール
澤口実(さわぐち・みのる)
1991年東京大学法学部卒業、93年弁護士登録、現在、森・濱田松本法律事務所に所属し、東京大学大学院法学政治学研究科客員教授、経済産業省「コーポレート・ガバナンスシステム研究会」委員を務める。