美しい自然と四季の移ろいを持つわが国は、一方で自然災害の猛威に耐えながら世代をつないできた。古くは古事記や日本書紀に、また紫式部も源氏物語に光源氏が暴風雨におびえて過ごす記述を残している。
元日に発生した令和6年能登半島地震を含め、震度5強以上の地震は過去5年で31回を数える。主要工業地帯に大きな影響が見込まれる南海トラフ地震は、30年以内に70~80%の確率で発生すると予測されている。加えて、気候変動の影響や低地開発の進行によって、浸水想定区域内で暮らす人口はむしろ増え、豪雨や台風による被害も増加傾向にある。
気候変動への対応は「緩和」と「適応」の両面で進めていく必要がある。前者は脱炭素の取り組み、後者は国土強靭化、防災・減災や事業継続計画がそれにあたる。わが国が資源・エネルギーや食料の多くを他国に依存する貿易・投資立国であることを考えれば、国の存立や国民生活の維持には、災害に対して速やかに経済が立ち直るレジリエンス(回復力)が要諦である。エネルギー源の多様化、サプライチェーンの強靭化、人口減少を踏まえたインフラ整備や街づくり、流域治水など自然資本の活用、被災者のヘルスケア、分野横断的なデジタル技術の活用、他国との連携など、多岐にわたる課題の解決に向けて経済界の果たす役割は大きい。
わが国はこれまで国連防災世界会議の開催地として、兵庫行動枠組や仙台防災枠組など国際的な災害対策の指針を示してきた。グローバルサウスを含む多くの国がその重要性を深く認識する中、われわれは自らの実践に加え、その経験と知見をもとに連携することもまた求められている。
古くから重ねてきた経験と知恵、新たに培った技術と知見を基盤として、いかにレジリエンスの高い社会をつくり、将来世代につないでいくか。持続可能な社会の実現に向けて、企業が協調すべき領域は拡がっている。