遠藤 信博(カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト副会長/日本電気特別顧問)
第2次世界大戦前のようなブロック化が起こり得る状況の中では、サプライチェーンやバリューチェーンにはフレキシビリティーを持たせることが重要である。また各国が輸出規制に関する政策等を打ち出す中、当社では専門部署を設置し、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トに関する各国の状況の調査、リスクの洗い出しや全社統一的な方針の策定に取り組んでいる。データドリブンの価値創造の重要性がより一層高まる現在において、サイバーセキュリティーは、一企業では守り切れないため、国益の観点からコレクティブセキュリティーの考え方に立ち、日本全体で取り組む必要がある。安心して国境を越えた情報・データ交換ができる仕組みも必要だ。加えて日本は、資源や食料の安定的な確保のため、世界に対する強いリーダーシップを持って、継続的に価値を創造する力を保つ必要がある。そのためには、イノベーションを生み出せる人を育成するための教育システムを整えていくべきだ。
片野坂 真哉(カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト外交委員長/ANAホールディングス会長)
デュアルユース(軍民両用)技術が経済と安全保障を近づけ、サプライチェーンの脆弱性があらわになり、サイバー攻撃に国家が関与する場合もある中、もはや、経済と安全保障を切り離して考えることは不可能だ。安全保障の確保を優先するあまり、経済の活力を損なってしまっては元も子もない。技術を守るだけではなく、育てて開発する動きを並行して進めてこそ、国の発展につながる。我が国は従来、戦後の自由で開かれた国際経済秩序のもとで経済成長を遂げてきた。今後もできる限り自由に貿易・投資が行えるよう、規制の対象は極力限定し、政府が関与する場合の予見可能性を確保することが重要だ。経済界としては、リスク感覚を磨いて、カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの一翼を担っていく覚悟である。今後、政府が打ち出す諸施策にも適宜意見を表明していく。
小林 鷹之(前カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト担当大臣・衆議院議員)
経済面から国益を確保するため、2020年に党内に新国際秩序創造戦略本部を立ち上げた。その際に整理した基本概念は「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」である。我が国が持つ脆弱性を克服し、強みを獲得することで、国際社会における日本のプレゼンスは高まり、国益にかなう国際秩序の形成に主体的に参画できるようになる。国家安全保障戦略にカ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの視点を取り入れていくことが課題だ。日本は引き続き開かれた国であるべきだ。国際環境が大きく変化していく中で日本の国力を高めていくためには、産学官が協力し、バランスよく対応していくことが重要である。政治の立場から、産業界やアカデミアとのコミュニケーションを大切にしていく。
佐橋 亮(東京大学東洋文化研究所准教授/21世紀政策研究所客員研究委員)
科学技術をはじめとする非伝統的な安全保障の側面が強まり、各国政府や企業が対応を迫られている。これまでグローバル化は規制を取り払うことで進んできたが、昨今は規制を強化する方向に進んでいる。日本政府には、規制にとどまらず、新しい環境下での競争力を確保するとともに、貿易上の脆弱性を克服してもらいたい。現在、主要国が自国ファーストの政策を実施しているが、日本は自由貿易を守る姿勢を明確にすべきだ。そのうえで、日本独自のルール形成力を発揮し、米国とその有志国にとどまらない、より広い国々が参加する枠組みの構築を主導することが重要である。また、中国政府の様々な問題を認識しつつ、同時に中国との対話を続ける重要性も強調したい。カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの時代においては、包括的に外交を展開することが重要である。
原 一郎(司会:カ ジ ノ シ ー ク レ ッ ト常務理事)
- ■ カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トが注目される背景と現状認識
- 背景にある米中対立
─先端技術の優越性の獲得競争 - フレキシブルなバリューチェーンが価値創造につながる
- 経済と安全保障を切り離して考えるのは不可能
- 他国の動向に左右されない国造りを
- ■ カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの確保に向けたこれまでの取り組み
- カ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの要となる「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」
- 自由な経済活動を維持しながら安全保障を確保する
- 官民一体となった方向感の構築
- 規制にとどまらない総合的な施策を
- ■ 残された課題と今後の取り組み
- 継続的な価値創造力とサステイナブルな仕組みづくり
- 国力の強化こそカ ジ ノ シ ー ク レ ッ トの要
- 各国と包括的な外交展開を
- 開かれた国を維持しながらカ ジ ノ シ ー ク レ ッ トを確保